男と女

いやいや、まいった。君はバイトの男でもいい奴なのに不愛想で悪かった。ほんとに反省してるよ。許してくれ。ついでに言い訳もしておこう。考えてみてくれ。ナイスガイの君の目にどう映っていたか知らないが、ぼくは中年のオヤジなんだ。特に今日はくたびれたシャツがバクチで文無しになった失業者みたいだっただろ? だからシャツを買いにユニクロに寄ったのさ。1980円のボタンダウンをね。


レジにいるときに声をかけられたけど君は女連れだったじゃないか。僕はとっても恥ずかしかったよ。よし、ここで大人のアドバイスだ。レジでしょぼくれた中年の知り合いを見つけたらその時は見て見ぬフリをするべきだ。どっかの役人のようにね。これはいつか君に役立つアドバイスになると思うよ。サラリーマンになるなら尚更だ。しかしなぁ、その君の彼女もウチの元バイトだったなんてね。ますます恥かしいよ全く。昔から僕はバイトの名をよく覚えてないんだよ。先日の元の部門の飲み会でもこんなことがあったんだ。




めんどくさいので遅れて行ったら案の定でき上がってる女多数。まぁメンバーも女性が三分の二だからそれは分かる。そのうち始まったよ、そこの部門内で好きになった異性は誰かって話。ほら、まるで修学旅行で中学生がするような話題だ。そんな話題が大好きなファットな女からまっさきに質問が飛んできた。うーん、どうでもいいだろ、そんなもんとは思いつつ、人のよい僕は一応考えた。


「そういやスラっとした長身の女の子が可愛かったなぁ、ナースの学校の人だっけ?でも名前は覚えてないや。」
「ええーっ、Oダさん!あの子の彼氏チンピラですよ!」
「そうだ!Oダさんって名前だった気がする」
「でも好み的にはUエダさんのはずです!絶対そう!」


そのファットは断言した。なぜ決めつける?俺の好みの女の子の話じゃないのか?


「いや、Uエダさんは分かるから。わかった。わかった。Oダさんだよ、Oダさん。」
「ふーん、Uエダさんは離婚しちゃったんだよねー。子供も可愛くてさ、すっごいいい人っていうか可愛いよねー、そっかぁUエダさんかぁ。」


おい、デブ。何納得してんだ。決めつけんじゃねー。違うつってんだろ!


しかし、話を振るだけ振っといて僕の好きだった子はUエダさんてことになってしまった模様で、この辺から話がかわりだし、所謂ガールズトークというのかオバサントークになっていった。うーん、何のための質問だったんだろう。


「ねぇねぇねぇ、みんなは自分から行くタイプ?それとも待つ方のタイプ?」


なんて気持ちの悪い質問だ。すまんが芋焼酎をロックでくれ。飲まずに聞いていられない。



ここで僕の元上司が発言した。


「私はねー、自分からは言ったことないの。好きになった人が言ってくるの。」


オエッ!気持ち悪いにもほどがある。もうたくさんだ。しかしここでさっきのファットが追い討ちをかける。


「やっぱり、美人は得ですよね〜、ホントうらやましぃ〜っ」



なんかヘンだぞ!、言われた本人も納得してるし、ここの部門では『あの人=美人』ってことなっている。なんなんだ、いったい。日本の美人の規格が法律で変わったのか?僕はこのメンバーでは今の職場でよく会う女の子以外は想定外っというか、たとえ泥酔しても体を重ねることはないだろう。お願いだ。もう仲間に入れないでくれ。




どうだい?なんとなく名前を覚えられないことは伝わったかな?君の彼女に伝えたいのは勘違いした女になるな、ってことなんだ。世の中にはこんな女がワンサカいるんだぜ。たまんないだろ。


そんな君たちにこの歌をプレゼントするよ。「Sabor a Mi」というラテンの名曲だ。


 Tanto tiempo disfrutamos este amor
 nuestras almas se acercaron tanto asi
 que yo guardo tu sabor
 pero tu llevas tambien
 sabor a mi


 随分長いこと2人で愛を育んできて
 私たちの魂はあまりにも近づきすぎたから、
 私の中にあなたのをテイストを感じる
 でも、あなたも同じ
 私のテイストがしみこんでいるわ


 si negaras mi presencia en tu vivir
 bastaria con abrazarte y conversar
 tanta vida yo te di
 que por fuerza tienes
 ya sabor a mi


 もし、あなたの人生に私の存在が必要ないというのなら
 あなたを抱きしめて、おしゃべりするだけで十分よ
 あなたに私の人生をいっぱい捧げたから
 あなたには、否が応でも、私のテイストがしみこんでいる

このホセ・フェルシアーノは目が見えないけど凄いギタリストなんだ。よし、今日はラテン特集だ。ついでに僕の大好きなこの曲もプレゼントしてお別れしよう。じゃぁ彼女によろしく。