本当に必要なものだけが荷物だ

忌野清志郎「瀕死の双六問屋」第15話より


旅の支度をしなくちゃな、そろそろ出発の時間だ。シャワーを浴びてる間にそっと立ち去ってくれ。いいね、このことは誰にも言ってはいけないよ。他言は無用だ。心の中にしまっておくんだな。その方が美しい。いつかまた会おう。
 俺は旅慣れているから、あっというまに出発の準備は完了だ。本当に必要なものだけが荷物だ。そうさ。これは俺みたいな旅人だけに言えることじゃない。すべての奴らに言えることだ。もう一度言おう。本当に必要なものだけが荷物だ。ふふふ・・・・我ながらいいフレーズだ。何か深い意味を感じるぜ。ブルースの一節みたいだ。音楽評論家のみなさんがインタビューで必ずつっこむんだろう。「キヨシローさんにとってそれは何ですか」なんちゃってね。まったく目に見えるようだ。雑誌のインタビューにラジオ、テレビ、プロモーション・ビデオ。20年くらい前から、こんなシステムが出来上がったのだ。そうさ、システム化すれば、わかりやすいし、楽だからな。世間知らずのガキどもがその時の気分でお気に入りのタレントを選ぶというわけだ。そして評論家や編集者はまるで自分が若者文化を作ってるような気分で高級外車に乗ってブクブク太っていくというわけか〜。うーむ、暗い話のように聞こえるかもしれないが、漫画のネタとしてはけっこういけてるぜ。失望して死んじまう奴もいれば、成金になる奴もいるという、安っぽいTVドラマのような現実か。うーむ、やはりサイケデリックとかシュールが必要になってくるな。ソウルとロックン・ロールもだから大切なんだ。そうだ、やっぱり俺のギターが必要だ。俺が自分で弾いた方がいい。うまいギタリストや、高いギタリストや早いのや売れっ子を呼んでも知れてる。俺ほどカッキ的な奴はいない。だって本当に俺の知り方でサイケデリックやR&Bを知ってるのは俺だけなんじゃないのか。つまり、ソウルフルとサイケが同じだと感じてるのは俺だけなんじゃないのか?
 俺だけの問題じゃないと思うな。君が誰かに頼んでも100%真意は伝わらないだろう。自分でやるしかないんだよ。失敗したって、それなら納得がいくというものさ。誰かにしてやられて失敗して責任だけかぶらされるのはもうゴメンだ。
うーむ、それにしても今度の俺のソロ・アルバムはかっこいい。早く君にも聴かせてあげたい。何度聴いてもかっこいい、だからもっと聴きたくなってしまうんだ。何か今までとは違うんだ。この感じを早く君にも感じて欲しい。同じ快感を得られるなんて、とても素敵なことだ。ああ、早く君にも聴いて欲しいよ。待っていておくれ、もうすぐだ。いつか晴れた日に君に届けられるだろう。ごく近いうちにね。タイトルをみて君はすぐにOTIS REDDINGの「KING&QUEEN」のアルバムを想い出すことだろう。そう、「ラヴィーダヴィー」って歌が入ってる、あのアルバムだよ。ラヴィータヴィーとは恋人同士のことなのだろう。スタジオに入って、その場で作り上げたような勢いのある作品だ。
 よーし、もう一度だけ言おう。君に伝えよう。「本当に必要なものだけが荷物だ」ってね。
 それでは、ごきげんよう。出発の時間だ。またしばらくしたら君の近くに帰ってくるだろう。